AIで作った人は多い。でも「世に出した」PMだけが掴んだ学び|SmartHR 浅子さん

著者: 松原 泰之
AIで作った人は多い。でも「世に出した」PMだけが掴んだ学び|SmartHR 浅子さん
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「明確にPMにボトルネックが移ってきていて、僕は今、かなり焦りながら仕事をしています」/「『AIで作ってみた』という話はよく聞くけれど、それを世の中に出して反応を伺うところまでやれている人は、そんなに多くない」

SmartHRで現役のプロダクトマネージャーを務める浅子さんの言葉だ。

AIで、誰もが自分のプロダクトを「作れる」ようになった。手を動かすPMも増えている。けれど、作ったものを世に出し、反応を浴び、そこから学ぶところまでやりきった人は、まだ少ない。

浅子さんは、その数少ない一人だ。「BabyEyes」と「SpotTales」という2つのプロダクトを、個人で作って世に出した。そして今、その経験が本業に効いているという。担当プロダクトでPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)を兼ねることになり、作るだけでなく「届ける」ところまで背負う立場になったからだ。

企画「現役PM、AIでつくってみた」。今回、聞きたかったのは、「作ること」ではなく、「出すこと」に宿る学びだった。聞き手は、プロダクトマネージャー専門の転職エージェントを運営するGranty代表の松原泰之。

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「反響はあった。でも、使ってくれる人は一握り」

SmartHRの現役PM・浅子拓耶さんに話を聞いた
SmartHRの現役PM・浅子拓耶さんに話を聞いた

浅子さんが作ったのは、毛色の違う2つのプロダクトだ。正直に言うと、着眼点とUXのシンプルさに、聞き手の私(松原)は少し嫉妬した。どちらもXで大きな反響を得ている。「センスあるな、と思いませんでした?」と聞くと、返ってきたのは冷静な言葉だった。

「嬉しいは嬉しいんですけど、反響があるからといって使ってもらえているかというと、使ってくれている人はすごく一握り。もっと頑張らなきゃ、という気持ちの方が多かった」

「Xで反響が大きくても、noteにスキがつくわけではないし、ブログの収益に繋がるわけでもない。それと同じ構造だな、と出してみてひしひしと感じています」

SpotTales:旅先にまつわる一冊が見つかる

SpotTales。地名を入れると、その土地にまつわる小説や漫画をAIが探してくる
SpotTales。地名を入れると、その土地にまつわる小説や漫画をAIが探してくる

1つ目はWebサービス「SpotTales」。地名を入れると、その土地にまつわる小説や漫画をAIが探してくる。

「旅行に行くとき、その土地にまつわる本を読んだり、映画を見てから行くのが好きなんです。でも、たとえばキューバの本や映画を見漁ろうとしても、Amazonでは見つかりにくいし、Googleで検索しても10年前の個人ブログが流れてくる。ピンとくるものをさっと見つけにくい」

ずっと欲しかったサービスだった。「AI時代になって、自分で作れそうになったので、じゃあ作ってみようか、と」。データベースは持たず、都度LLMが探してくる設計だ。「ハルシネーションもあるし、遷移先で見つからないこともあるけれど、定番の観光地やよく舞台になる場所なら、比較的ちゃんとしたものが出てきます」。

BabyEyes:我が子が見ている世界が、気になった

BabyEyes。カメラをかざすと、月齢に応じたフィルターで赤ちゃんの見え方を追体験できる
BabyEyes。カメラをかざすと、月齢に応じたフィルターで赤ちゃんの見え方を追体験できる

2つ目はiPhoneアプリ「BabyEyes」。カメラをかざすと、月齢に応じたフィルターで「赤ちゃんにはこの景色がどう見えているか」を追体験できる。きっかけは、ある原体験だった。

「子供が生後三ヶ月ちょっとの頃、初めて一緒に水族館に行ったんです。大きな水槽の上の方で、光がゆらゆら揺らめくじゃないですか。それをすごくじーっと見ている姿を見て、『この子の目には、何がどんな感じで映ってるんだろう』って気になって」

月齢ごとの見え方は、調べれば情報は出てくる。「でも、今この瞬間に自分と子供が見ている景色がどう映っているか。それを追体験する機会って、ないじゃないですか」。精緻でなくていい、「こんな感じ」でも追体験できれば、子供の気持ちで会話ができそうだ。そう思って作った。

UXは「正直あまり深く考えていない」と笑う。まずカメラをかざした今の見え方を中心に据え、あとから「過去の写真や動画にもフィルターをかけられるように」広げていった。

99%バイブコーディング、残り1%に人間の温かみ

浅子さんはエンジニア出身ではなく、iOSアプリを作ったのは今回が初めて。

「何もわからない状態から始まっているので。99%バイブコーディング。残り1%の、文言を変えるとか、パディングやマージンを整えるところに、若干人間の温かみが入っているくらいです」

作るところ以外、企画もデリバリーも、ほぼAIと伴走した。「元のアイデアは自分で持っていて、ラフに『こういうコンセプトで、こういうことができるアプリを作りたい』とインプットして、あとは壁打ちしながら磨いていく感じ」。

ただ、「ちゃんと作るぞ」となったときは、PMの職業病が出る。「コンセプトを絞ってターゲットを決めて、どういう気持ちになってほしいかを設計してから作らないと、不要な機能をつけて、いつまでもリリースできない。MVPを決めきることは意識していました」。SpotTalesでは、当初は映画も含めようとしたが現実的な解が得られず、まず本に絞ってリリース。作りながら「広い国名では探しにくい」と気づき、都市までブレイクダウンできるようUXを磨いた。

世に出すときの、静かな怖さ

「裏でLLMが動くサービスを世に出したら、コストがどれくらいになるんだろう」
「裏でLLMが動くサービスを世に出したら、コストがどれくらいになるんだろう」

本番リリースで詰まったのは、意外にもコストだった。「裏でLLMが動くサービスを世に出したら、コストがどれくらいになるんだろう、と結構ビビりながらリリースしました。正直、赤字を垂れ流しながら運営することになるな、と」。SpotTalesは広告も検討したが「体験がめちゃくちゃ悪くなる」のでやめ、BabyEyesはApple Developer登録の年間費用を回収できたら、くらいの気持ちでアプリ内課金を実装した。

一方、世に出すこと自体は淡々としていた。「仕事で機能をリリースするときのドキドキと、あまり変わらない。想定した層に届くかな、とは気にしつつ、すごく不安ということはなかったです」。反応は「思っていたより、いっぱいもらえた」。事前検証も友人へのヒアリングもしていない。「本当に自分が欲しかったもので、世に無かったから作った、という感じなので」。

バズは来た。でも、認知され続ける仕組みがない

反響と実利用の間には、はっきりした溝があった。「ToCだと余計にかもしれないけれど、AIで新しいものが出るスピードも速くて、個人で一山当てるのは、昔より何百倍も難しくなっている」。

「認知の大きな山はあった。でも、その後『認知され続ける仕組み』が今のところない。山が去ると、あとは検索からぼちぼち。第二、第三の波はまだ作れていません」。知ってはいたつもりでも、自分でやると難易度と根気の必要さを痛感した、と言う。

ここから本業へ。浅子さんが担当するプロダクト

浅子さんはSmartHRのタレントマネジメント領域のなかで、人事評価・従業員サーベイ・スキルや資格の管理などで集めた情報を横串で束ね、従業員一人ひとりのキャリアやステータスを見られる「台帳」的なサービスを担当している。入社は昨年11月、BtoB SaaSのPMに挑戦するのは初めてである。

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現場の変化。プロトは爆速、エンジニアは自律的に

「(世の中の多くのプレイヤーが発信してくれているので)もはや僕から言うべきことはない、というレベルで、開発の仕方もPMの仕事も変わってきている」と前置きしつつ、現場の変化を二段で語ってくれた。

社内全体では、AI活用がここ半年ほどでさらにブーストされている。「プロトタイプでソリューション検証や技術検証を爆速で進められるようになって、以前は長くかかっていたものが速く出せる事例をいくつも聞きます」。さらに、「エンジニアが自発的にディスカバリーを進めて、データや顧客の声、商談の文字起こしを見てドキュメントを書き、レビューを通しに行く。職種を超えて自律的に動く事例も出てきています」。

自身のチームでも、年始からClaude Codeを本格的に使い始めた。「並行数・並列数が増やせて、デリバリーできた機能の数がめちゃくちゃ増えた」。印象的なのはチャーン(解約)対策だ。「以前なら『優先順位を上げられないので別の方法で回避できませんか』と相談していた案件を、プロトタイプを作って関係者やお客さんに反応を伺ってから機能開発に進められた。AIのおかげでプロトが簡単に作れて、チャーン回避につながった事例もあります」。試行回数が、確実に増えている。

ボトルネックは、PMへ

「明確にPMにボトルネックが移ってきていて、僕は今、かなり焦りながら仕事をしています」
「明確にPMにボトルネックが移ってきていて、僕は今、かなり焦りながら仕事をしています」

この変化は、PMに何をもたらすのか。答えは率直だった。

「『ボトルネックが開発からディスカバリーに、エンジニアからPMに移ってきている』とよく言われますが、まだまだAIを最大限活用するための方法を模索中の僕のチームでも、かなりヒヤヒヤします。明確にPMにボトルネックが移ってきていて、僕は今、かなり焦りながら仕事をしています」

速く作れるからといって、バックログを消化すればいいわけではない。「いらないものを作ってもしょうがない。なぜこれを、この順番で作るべきか。どのお客様の、どんな業務課題を、どういう状態にするために作るのか。それを根拠を持って、これまでよりずっと速く決めきる必要がある」。入社一年未満で初めてのBtoB SaaS。「他のPMに壁打ちしてもらうと、結構ボロボロなフィードバックをもらう。試行回数を増やすだけでなく、その一つひとつに根拠と解像度がないと前に進まない」。

AIが戦略を出しても、意思を込めて決めるのは人間

3年後、5年後を見据えても変わらないと思うことがある、と浅子さんは言う。「ドメインへのディープダイブは、もうPM以外も含めて全職種の大前提。ただ、解像度が高ければいいものが作れるかというと、そうでもない。解像度を高めた上で、スタンスを取り、ストーリーを提示して、会社の方針にアラインしたものを作る。AIがそれっぽい戦略を出しても、そこに意思を込めて決めに行く、ストーリーを持って語るのは、まだ人間がやることだと思っています」

もうひとつ、最近ウッと思っていることがある。「解像度を上げて機能を考えるだけだと、売上や成長のジャンプが作れない。ジャンプの種を探して形にする力を身につけないと厳しいな、と」。社内の「変化を作れるPM」は、積み上げが上手なPMとは動き方が違う。「海外の先進事例をキャッチアップして、なぜやっているかを分析し、自社に落とし込む。周りを巻き込んで、まず使ってもらえて売れる状態を素早く作る。具体と抽象を行き来して、アイデアを形にできるのが強い」。

「世に出した」経験が、本業に効いた

作れることは当たり前になった。だからこそ、差は「出したかどうか」に宿る
作れることは当たり前になった。だからこそ、差は「出したかどうか」に宿る

そして、この記事の主題。自分で作って世に出した経験は、本業にどう返ってきたのか。

浅子さんの担当プロダクトでは、7月からPMがPMMを兼務することになった。デリバリーまで背負う立場だ。「数字として明確に返ってくるところまではまだですが、自分でものを作ったからこそ、デリバリーをどう考えるべきか、頭ではわかっていたことが、身に染みてわかるようになった。より熱を持って動けるし、どこにボトルネックがありそうかに意識が向くようになりました」

BtoB SaaSでは、社内のセールスやCSが売ってくれるかどうかが要になる。「1500人以上の社員がいて、マルチプロダクトで機能アップデートも多い。社内の認知を取って売ってもらう難易度がものすごく高い。どうしたら売りやすいか。ものづくりでも、伝え方でも、時にはトークスクリプトやロープレ素材まで。ToCとToBは違って見えても、考えなきゃいけないことは一緒だなと感じます」。個人開発で味わった「認知され続ける難しさ」が、そのまま本業の視点になっていた。

「頭では、みんなわかっていると思うんです。企画の大変さも、デリバリーの大変さも。ただ、実際やったかどうかは、意識しないところで血肉になっていく。そういう面では、作ってみてよかった」

前職で一緒に働いた人からの言葉も、今になって染みているという。「『何でもいいから自分で物を売ってみて、物を売る苦労を知った方がいい』。一から作って、知らない人に届けるところまでやってみて、あの言葉の意味がようやくわかりました」。

これからのPMへ。つくって世に出そう

AIでプロダクト開発が速くなり、PMの役割が揺れ、「プロダクトビルダー」という言葉も生まれた。この先どうすればいいのか、モヤモヤしているPMも多い。最後に、そんな人へのメッセージを聞いた。

「もしプロダクトビルダー的に動きたいなら、本業の中でそれができるようにするのが、一番成長にレバレッジが効くと思います。ただ、個人開発は、会社の仕事とは別のところで、全部自分で責務を負って、考えて・作って・届けて・直すプロセスを高速で回せる。学びのリードタイムがすごく短い」

「AIを使って自分で物を作って、それを届けることすら簡単にできる今、やらないともったいないのかもな、と自分でも感じています。『AIで作ってみた』『ローカルで動くものを作った』『家族の中だけで使うものを作った』という話はよく聞くけれど、それを世の中に出して反応を伺うところまでやれている人は、そんなに多くない。その最後をやったからこそ得られる学びは、骨身に染みてくる。ぜひ作って、出してみてほしいし、僕もこの先、積み上げていけたらと思っています」

作れることは、もう当たり前になった。だからこそ、差は「出したかどうか」に宿る。浅子さんの言葉は、AI時代のPMの背中を、静かに押していた。


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本記事にご登場いただいた浅子さんが在籍するSmartHR様のプロダクトマネージャー求人も、Grantyエージェントよりご紹介できます。SmartHRには複数のプロダクトマネージャーのオープンポジションがあります(SmartHRの求人一覧はこちら)ので、気になる方はお気軽にご相談ください。

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