「タイトル勝ちですね」
まず本人が、あのnoteについてこう言った。
「これはタイトル勝ちですね」
「なぜ3年で転職してはいけないのか」を見るとムッとする。ムッとして中身を読んだら、意外とまともなことが書いてある。そういう構造で作られている、と柳川さんは明かす。約2万字の長文だ。
では中身は何か。
3年という数字の根拠は、期間そのものではなく「振り返りを何周できるか」だった
「その仕事、自分のやった仕事が結局どういう効果を生んだのかをちゃんと追って見切って、じゃあ次のネクストアクションをして、というのを何回か回そうと思ったら、やっぱり1年とか2年だとなかなか終わりになっちゃう」
プロダクトマネージャーはアジャイルだ、振り返りだと言う。それなのに、3年以内に転職して振り返りができていない。それは成長できていないのではないか──というのが、noteの第一の論点だった。
そしてもうひとつ、柳川さんは面接官としての実感を挙げる。
「結局どんな仕事をしてきたんですか、というのを聞くわけですよね。やっぱり1年でやってきた仕事と3年かけてやってきた仕事って、中身の充実度というか、重さとか伝わってくる感じが全然違う」
一つ"語れる仕事"を作っていくことが、転職していく上でも看板になる。だから腰を据えたほうがいい、という話だ。
さらに柳川さんは、こう付け加えた。短期で成果を出してやっていくなら、そもそも正社員である必要はないのではないか。業務委託でも、スポットの案件でも、受託の会社でもいい。せっかく事業会社で働くなら、成果にコミットすることを考える。そうすると、やはり3年くらいないと成果は出しにくい。
「それってただの社会科見学だよ」
ここまで聞くと、書いた本人はさぞ模範的なキャリアを歩んできたのだろうと思う。ところが、である。
「なんだけど、僕も最初の会社2年で辞めてるし、次の会社1年で辞めてるんだけど。どの口が言う、っていう」
聞き手の松原が、その2年と1年を振り返って"語れる実績"は作れなかったのかと尋ねると、柳川さんの言葉は急に重くなった。
過去の自分を「社会科見学」と呼んだ瞬間
「本当に新卒で入った会社とか2社目の会社には、本当に申し訳ないことをしたなっていうか。特に新卒の会社って投資してもらって、お返しすることがないまま辞めてしまったなと思っていて。これ文章の中でも書いてるんですけど、それってただの社会科見学だよって」
この言葉は、誰かを責めるために書かれたものではなかった。「自分がやってしまったな、っていう反省があって書いてる」。過去の自分を戒める言葉だという。
1社目はSIerだった。さまざまな案件を経験し、エンジニアの仕事や人月でお金をもらうということの概要はつかめた。それでも、と柳川さんは言う。
「じゃあ会社にバリューが返せたかって言ったら、全然返せてないんで。結局、会社にバリューを返すところまでやれてないと、ストーリーとしてはつながってない」
そして、この対話でもっとも本質的な一行が続く。
「なかなか、経験はさせてもらったが、語れるだけの経験はないっていう感じかなと思います」
経験と、語れる実績は違う。この記事のタイトルにした理由がここにある。
"語れる実績"の分かりやすい形と、その裏側
では、語れる実績とは具体的に何か。柳川さんはまず、分かりやすい形を挙げる。
「自社でプロダクトを持っている会社という文脈で言うと、一番わかりやすいのは、自分が作ったプロダクトが売上を上げて、どれだけ成長するかという話」
柳川さん自身がまさにそれだった。エンジニアとして金融事業の立ち上げに関わり、そのプロダクトをどうグロースするかという観点でプロダクトマネージャーにジョブチェンジ。数字を伸ばした結果、事業責任者になった。
聞き手はGranty代表の松原泰之。対談は約55分におよんだ
在籍9年。本人の表現では「エンジニア3年、プロダクトマネージャー3年、事業責任者3年みたいなグラデーション」だ。ただし、きれいに3年で区切れているわけではない。エンジニアをしながら半分プロダクトマネージャーという時期が2年ほど続き、採用が進んでエンジニアが増えたことでPMに集中できるようになった。1年1年の変化の積み上げだったと振り返る。
ここで松原が、多くの読者が抱くであろう問いを投げた。そういう機会に恵まれない人は、どうすればいいのか。
柳川さんの答えは、意外なところから始まった。
「実際のところ、僕はやっぱり運が良かった方だと思うわけですよ」
何年も同じプロダクト、同じ事業に関わらせてもらえるのは、ユーザーに気に入ってもらって成長していかないと難しい。そういう環境が得られるかどうかは、自分の実力だけの話ではない──。
運に左右されない部分は、どこにあるか
とはいえ、話はそこで終わらない。運の要素を差し引いてなお残るものがある、というのが柳川さんの主張だった。
「語れるかどうかという観点で言うと、どれだけ自分事として、自分が考えながら仕事をするか」
関わっていたプロダクトが成長していたとしても、なぜそのプロダクトに関わり、どんなアクションをしていたかを考えていなかったら、語れる実績にはならない。逆に言えば、考えていれば語れる。
「キャリアという目線で考えると、もちろん結果も大事なんですけど、やっぱりプロセスも大事。このことに対して自分はどのように挑んでいったかを語るというのは、日々の積み重ねなんですよね」
日々の仕事ひとつひとつに対して、なぜ自分はこの仕事をしているのだろうと問う。その積み重ねが、結果として語れる内容になっていく。
「それは何のためにやったことなのか、みたいなことに妥協しない。それはすごく大事なのかなと思ってます」
意義づけを、他人に任せない
ここから話は、より実践的な領域に入っていく。
会社員である以上、仕事は会社から降ってくる。会社に指示されて仕事をしなければ給料はもらえない。それはそうだ、と柳川さんも認める。問題はその先だ。
「ある意味、自分の中で再定義して意義づけするというフローをやらないままやっちゃうと、結局、何のために仕事してきたか分かんない」
会社が実現したいことと、自分がやりたいこと・得意なこと。この2つを結びつける力を、柳川さんは独特の言葉で表現した。
会社の目標と個人の意志を、時間軸をずらして結びつける
「僕、結構子どもの頃から親に、あんた本当にああ言えばこう言うよねって言われて育てられたんですけど。"ああ言えばこう言う力"が結構大事だったな、と」
たとえば会社は「この事業の売上を伸ばせ」と言う。一方、メンバーは「プロダクトマネージャーとしてこういうスキルを上げたい」と考える。この2つは、つながっていなければおかしい。プロダクトマネジメントのスキルが上がったところで売上が上がらないなら、何のためのスキルなのか、という話になる。
ただし、短期では両者がつながって見えないことがある。そこで効くのが時間軸をずらすという視点だ。
「短期的には、めちゃめちゃevilなことをして伸びるみたいなことも可能だと思うんですけど、中長期的に繁栄していこうと思ったら、ユーザーのためになることをしていかなきゃいけない」
短期の売上と、中長期のユーザー価値・プロダクト価値。軸の違いを認識したうえで、今は何に集中すべきかを言い換えていく。それが"ああ言えばこう言う力"の中身だった。
では、この意義づけを上司や会社に求めてしまう人についてはどう思うか。松原がそう問うと、返ってきたのは短い一言だった。
「もったいないなと思います」
自分で意義づけをする機会は、誰にでもある
「もったいないっていうか、チャンスなのに。それを他人に求めちゃうと、それを意義づけするチャンスを失っているので」
もちろん、上手に意義づけしてくれる上司や会社もある。そこから学べることも多い。それでも、どんなにいい上司がいたとしても、自分は自分なりに意義づけをしたほうがいい。やってくれる人がいないなら、それはむしろチャンスだと思ったほうがいい──。
個人でやるのが難しければ、コミュニティに参加する、社内で別の仕事をしている人に相談する。ただし相談とは、答えをもらうことではない。「自分が考えていることとか、自分の状況を棚卸しする練習」の相手を持つことだと柳川さんは言う。
松原自身も、1社目に8年勤めるなかで自社しか見えていない時期があったという。社外の人と会うことで自分を客観視でき、何の目的で働いているのかに気づけた経験を重ねた。
「文脈が変わると、正しさとか意義って変わるんだなって。頭で分かってても、実際やってみないと腑に落ちない」(柳川さん)
自分の組織では常識でも、他から見れば別の常識があり、別の意義がある。語れる文脈を増やすことは、プロダクトマネジメントの力そのものでもある。いろんなユーザーにいろんな価値を届けるとなったとき、複数の物語を認識する力がなければそれはできない。キャリアの話のようでいて、顧客に何を喜んでもらうかというスキルにつながっている。

未来を変える意思決定をしよう
プロダクトマネージャーの転職エージェント「Grantyエージェント」
無料でキャリア相談する▶AI時代に効くのは、Whyのほうだ
ここまでの話は、AIの有無に関わらず成り立つ。では、AI時代という文脈を入れるとどうなるのか。
柳川さんの答えは明快だった。
AIを使う前に、その仕事の価値は何かを問う
「少なくとも今は変化が起こっている、変化の途中にある時期だよね、というのは一定の共通認識として取れている気がしていて。そういう時こそ、やっぱり意義づけがすごく大事になってくる」
AIも、何のために使うのか。そもそもAIを使う前に、仕事とは何か、自分が出している価値は何なのか。そこにこだわることがレバレッジのかかるタイミングなのだ、と。
プロダクトマネージャーという仕事は、もともと定義や「そもそも何のために」を持ちながら意思決定していく仕事だ。そこに時代の変化という変数が加わる。だからこそ、その力が強くなるタイミングなのだという。
この話は、面接の場面にも接続する。松原が「なぜそれをやったのか」を深掘りすると、「この本に書いてあったからです」と返ってくることがある。そう言われるとがっかりする、と両者の見解は一致した。
「方法とかHowって、別にずれていくんで。でもWhyはずれない。Whyを効率よくやるための方法としてHowがある。この結びつきを捉えることをしないと──結局AIも、Whyじゃなくて、Howなわけですよね」
借りてきた言葉は、バレる
もうひとつ、AIによって変わったことがある。やるハードルが下がったことだ。
「僕とかも最近、今までだったら本当に、会社をやりながら自分のウェブサービスを作るのかって、結構物好きじゃなきゃできなかったかなと思うんですけど、かなりそれが現実的になっている」
ウェブサービスを作ることに限らない。時代を変化させるものに実際に触って、一次情報を得る。それがすごく大事だ、と柳川さんは言う。
一次情報を持たない言葉は、聞き手に見抜かれる
「物事を語るときに、人が語っている言葉を借りてくると、嘘っぽいしバレるんで。自分がどう思ったかが一番大事。それを得るには、触ってみるとか、自分も何かやってみることがすごく大事」
軽やかにトライすることの価値も上がっている、と続けた。
そして最後に、象徴的な変化についてこう語った。少し前まで「プロダクトマネージャーにエンジニアリング経験は必要ですか」という質問がよくあった。答えは「あるに越したことはないよね」くらいのものだった。
「今だと、"やるでしょ"みたいな。やれるんだから、やれよみたいな話には、その変化は確実に起きている」
データで見る、求人票がいま求めているもの
柳川さんは「借りてきた言葉はバレる」と言った。ならば、こちらも一次情報を出す。
対談の後半では、聞き手の松原がプロダクトマネージャー求人の調査結果を共有した。転職エージェントとして日々求人票を読んでいる立場から、AI時代にPMの採用要件は本当に変わったのかを確かめたものだ。
サンプリングではなく全件調査。IT・SaaS中心のPM求人の傾向
2026年8月の収録時点で当社が扱っていたPM求人 402件を全件抽出し、うち要件を読み取れた 350件を分析した。加えて、PM採用の責任者への詳細ヒアリングを重ねている。
発見① AIは語られているが、「必須要件」には入っていない
AIは語られているのに、選考の入口条件にはなっていない
必須要件にAIが入っているのは 11%(350件中40件)。歓迎要件でも 17%(338件中57件)にとどまった。
ただしここで測っているのは「AI/MLプロダクトの実務経験」が要件に書かれているかどうかである。「個人としてAIを使い込んでいるか」は別物で、要件の語彙としてはそもそも存在しない。この点は後で効いてくる。
発見② 最も多いのは、AIでもエンジニア経験でもない
必須要件に最も多く書かれていたのは「巻き込み・推進力」だった
必須要件に最も多く書かれていたのは「巻き込み・推進力」で 46%。次いで要件定義・ドキュメントとマネジメント・育成がそれぞれ 28%、エンジニア・開発経験が 20%、データ分析・SQL が 19%、AI・生成AI・機械学習が 11%、事業数値・売上責任が 10% と続いた。
エンジニア経験が必須なのは5件に1件。残る8割は、それを必須にしていない。
発見③ 「AIでPMがビルダーになる」は、求人には表れていない
求められているのは実装ではなく、検証だった
AIによってPMが自分で作れるようになる、という語りはよく聞く。求人票を調べると、そうはなっていなかった。
プロトタイプ・PoC が 15%。ノーコード・ローコード 2%、PM自身が実装・開発する 2%、vibe coding 1%、「ビルダー」という語にいたっては 0.5%。求人5,575件を検索して「プロダクトビルダー」は0件だった。
求人票が求めているのは、自分で作ることではなく、速く検証することである。
発見④ 技術要素より、ビジネス要素のほうが厚い
技術要素のみ13%に対し、ビジネス要素のみは32%
求人票の本文を見ると、技術要素のみに言及しているのが 13%、ビジネス要素のみが 32%、両方に触れているものが 30%だった。
さらに、必須要件にPM経験を挙げていない求人が36%(350件中126件)ある。そのうち38件は、事業開発・コンサル・経営企画・セールスといった他職種の経験を必須に挙げていた。
PM経験がなければPMになれない、という前提は、少なくとも求人票の上では崩れている。
ここから先は解釈になる
これは測定結果ではなく、現在の要件分布とヒアリングからの解釈である
以下は測定結果ではない。過去の求人を分析した時系列データは持っていないため、現在の要件分布と採用責任者へのヒアリングから読み取った解釈である。そのうえで、変化は二段階で起きているように見える。
かつては「作る」がボトルネックで、PMはエンジニア出身であるべきとされた。技術がわからないと仕様が決まらなかったからだ。ここ1〜2年は、作れるだけでは売れないという前提に変わり、ビジネス領域への拡張、つまり事業をスケールさせる力が求められるようになった。そして生成AIによって「作る」が速く・安くなったいま、求められているのはドメイン理解と、事業を成立させる力である。
価値の重心が「作れること」から、「何を作るべきかを、顧客と決められること」へ移っている。
発見⑤ 求人票に書かれていないこと
そして、求人票を何件読んでも出てこない話がある。採用の責任者に直接聞くと、こう返ってきた。
PM採用の責任者への詳細ヒアリングより(企業名は伏せています)
「プロダクトマネージャーを名乗るからには、AIの情報収集と理解は必須」
「AIを積極的に触っていない人は、一次面接で不合格になることが多い」
「個人的に課金してでも使い、リターンがあると思えるくらいの使い方ができるレベル」
必須要件にAIが書かれているのは11%だった。にもかかわらず、選考の現場ではすでに効いている。求人票に書かれていないから求められていない、ということにはならない。
そして、この基準は柳川さんの話と重なる。無料でチャットに質問してみた、というのは借りてきた言葉に近い。自分で課金して、リターンが返ってくるところまで使い込んで、はじめて自分がどう思ったかを語れる。
この調査結果を聞いた柳川さんの反応は、こうだった。
「こんな楽な時代ないと思いますけどね。こんなやることが明確な時代ないと思うんで」
まとめ──経験を、実績に変えるために
この対話を通じて見えてきたのは、次の3点だった。
1. 期間そのものが本質ではない
3年という数字は、仕事の効果を追い、次の打ち手を回すサイクルを何周かするために必要な時間の目安にすぎない。振り返れていない3年に意味はない。
2. 会社に価値を返すところまでやって、はじめて実績になる
経験はさせてもらったが語れるだけの経験はない──この状態を、柳川さんは「社会科見学」と呼んだ。過去の自分に向けた言葉として。
3. 運に左右されない部分は、意義づけにある
何年も同じ事業に関われるかは運の要素が大きい。それでも、日々の仕事に「なぜ自分はこれをしているのか」を積み重ねることは、誰にでもできる。そして変化の激しい今、その力はいっそう効く。
次回は、そのキャリア戦略をどう描くのかを扱う。
Grantyは、プロダクトマネージャーに特化した転職エージェントです。この記事で使った求人データは、日々わたしたちが読んでいる求人票そのものから集めています。求人票に書かれていること/書かれていないことを含めて、キャリアの相談を承っています。
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